シリコンバレー・エコシステムを進化させた「アクセラレーター」とは?

ノマド投資家 小泉です。今回は、シリコンバレー・エコシステムを大きく進化させた「アクセラレーター」について書いてみたいと思います。

 

前回の記事にも書きましたが、シリコンバレー・スタートアップに事業変化が起こり、ビジネスの主体が「シリコン」から「インターネット・サービス」にシフトすると、起業家は低コストのクラウド・サービスを利用して「どこでも誰でも起業できる環境」を手に入れました。

 

その結果、オフィスロケーションから自由になったシリコンバレー・スタートアップの多くが、ライフスタイルを重視してサンフランシスコに移動したようです。これは裏を返せば、シリコンバレーのスタートアップ空洞化が進んだとも言えます。加えて、比較的容易に起業できるインターネット・ビジネスはスタートアップの数自体も増加させました。

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ここに、地域内の人的関係に重点をおいて成立していた「クローズ型」のシリコンバレー・エコシステムが、地域外にも広がる無数のインターネット・サービス系スタートアップに対して、「カバーエリア」を広げながら、且つ「無数のスタートアップを効率的に選別する」という課題を抱えるに至ったのだと思われます。

 

空洞化を避けながら、効率的に有望なスタートアップを発掘したいシリコンバレーと、世界でも類を見ない素晴らしい起業環境があるシリコンバレーを活用したい世界中のスタートアップを結び付ける、「マーケットプレイス」的機能が求められるようになったのではないでしょうか。

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そして、その課題解決に大きく貢献したのがスタートアップ・シード期の投資に特化した投資会社、YCombinatorや500Startupsのような「アクセラレーター」だったのだと思います。

 

前述のアクセラレーターは、「3ヶ月間のシリコンバレー居住を前提とした事業化プログラムの提供」「オンラインによる世界中からの参加チーム募集」「Demo Dayと称するシリコンバレー主要投資家に向けた一括プレゼン機会の提供」により、これまでシリコンバレーへのアクセスが難しかった地域外のスタートアップにも、世界最高の起業環境と称されるシリコンバレー・エコシステムをマッチングさせたのです。

 

そしてシリコンバレー自体もアクセラレーターを活用することで、世界中から有力スタートアップを発掘する能力を手に入れました。言いかえれば、アクセラレーターはシリコンバレー・エコシステム全体に大きな「レバレッジ」をかけたのです。

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実際、YCのような先駆的なアクセラレーターはインターネット・ビジネスで起業を望む優秀なエンジニアに事業化ノウハウを指導することで有力なスタートアップを量産できる可能性について、早い段階から気付いていたようです。

 

アクセラレーターの特徴は、平均2万ドル程度の少額資金を複数スタートアップに一括投資する手法です。そして、メンタリングを伴った3ヶ月間の育成プログラムにより、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルから投資を受けられる状態まで早期に育て上げます。

 

例えば、YCombinator では、「Batch」と呼ばれる3ヶ月プログラムを年2回開催しており、各Batchで約2000件程度の応募があるそうです。そこから50社程を選抜します。選考では、基本的にはチームの事業分野における実務経験を重視するそうですが、一方でシード期ということもあり事業アイディアだけではなく、チームメンバーに対する評価も同様に重視しているそうです。実際、プログラム期間中には、「ピボット」と呼ばれるビジネスモデルを根本的に変更するチームも結構いるとのこと。そうなると、確かに事業アイディアよりもチーム自体が重要になってきますね。

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そして、選考に通ったスタートアップは数%から10%程度の株式シェアと引換えに数百万円程度の出資を受けてプログラムに参加します。これはまだ売上もほとんどないシード期スタートアップのバリュエーション(企業価値)が数千万円程度と評価されていることを意味します。

 

参加スタートアップはプログラム期間中、シリコンバレーに住みながらプロダクトを磨くことに集中します。また、希望に応じて適時、YC担当者から個別アドバイスを貰うこともできます。加えて、YCが提携しているAndreessen HorowitzやSequoia Capitalなど、シリコンバレーの超一流投資家からのメンタリングや追加投資も受けられるチャンスがあるそうです。

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各Batchの最終日のDemo Dayでは、参加スタートアップ全チームがYCに集まった数百人のシリコンバレー主要投資家に対して、次フェーズの資金調達のためのプレゼンを行います。「ピッチ」と呼ばれるこのプレゼンの持ち時間は1社平均2分程度とのこと。このプレゼンがBatch期間の集大成であり、内容自体はYCのプログラム成果により非常にハイレベルだそうです。

 

また、プレゼンを受けた投資家が興味を持ったスタートアップにアポ取るためのシステムが提供されていたり、逆にスタートアップが参加投資家を評価するシステムなどもあるそうです。そのようなデータの蓄積が、YCのスタートアップと投資家を結び付ける機能の「精度向上」に貢献しているのだと思います。

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今回の視察を通じて、私はアクセラレーターが世界中から有望なタレントを発掘・選抜し、有力スタートアップとして量産する機能をシリコンバレー・エコシステムに提供していることに大変興味を持ちました。結果、シリコンバレー・エコシステムは全体のパイを拡大させて、世界中にその触手を拡張することに成功したのではないかと思います。起業家育成が経済成長の原動力と叫ぶ日本もシリコンバレーのアクセラレーターから学ぶことが沢山あるように感じます。

 

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